「夜のうちに、山を越えます
「夜のうちに、山を越えます。と越えてまいります。 高島の城下に、柴山様のお屋敷があります…。 隣国ですが、通常2日はかかる距離です。 あまり、休憩はできません」 松丸から手短に説明され、詩は頷く。 幼い頃から慣れた乗馬と、たくさん遊んだ鷹山。 2年前。父から詩に贈られたが、そこにいた。 「銀…」 詩は銀の首を一撫でする。 銀は、毛並みの美しい、立派な芦毛の馬だ。 銀はブルル…と鼻を鳴らし、詩に甘えるように顔を近づけ、首を下げた。 と、詩のために前足を折る。詩は銀にひらりと乗った。 松丸が、ほんの少し口元を緩めた。 梅と栄は恐る恐る。竹は豪華な着物が邪魔そうで、松丸が自分の前に乗せた。 松丸が竹と乗るのは、竹が、今、『姫』だから。 何かあった時、敵に竹を姫だと信じ込ませる意味もあった。 それで、4頭の馬に乗って、5人は暗い山道を駆け出したのだ。は、勝ち戦に終わった戦場にいた。 大勝に興奮冷めやらず、勝鬨をあげる自軍。 絶対的な、勝ちだった。 大将である父のが馬首を信継に向け、満足そうに笑った。 「三鷹はとった。次はいよいよーー相嶋だな」 「はい、父上」 「お前もよくやった。が三鷹の事後処理にあたっているが… 三鷹の女どもはいつものように戦利品として連れ帰らせる。好きに選んで抱け。 が…、どうも『三鷹の姫』は逃げたようだ…」 信春は高島家の次男だ。 「…」 三鷹の姫。 美しい奥方の、これまた美しく育ったという一人娘の評判は、高島のの信継の耳にも入っていた。 「…藤紫…。 我が物にしたかったが…」 『奥方は自害していました』 ーー先ほど伝令兵から報告を受け、遠くを見て呟く信八。 「…」 ...