海江田も酒に強いようだ
海江田も酒に強いようだ。が、かれはどうやら絡み酒らしい。
かれが副長に絡みまくっていて、副長は茶をすすりつつそれをうまくあしらっているのをみていると、横から半次郎ちゃんが徳利を差しだしてきた。「すみません」といいつつ、杯に注いでもらった。
「あん雨ん夜も、あたん剣はすごかったど」
まだだれも手を付けていない徳利があったので、それをひきよせ半次郎ちゃんの杯に返杯していると、半次郎ちゃんが杯をみつめながらいってきた。
あの雨の夜・・・・・・。
そうだ。おれが相棒とともにこの時代に迷い込み、髮線後移 半次郎ちゃんたちに襲われている副長をみたときのことである。
正直、あのとき、最初は映画の撮影かと思った。が、様子がちがう。だから、つぎに推理したのは、の抗争だ。
もっとも、現代のが遣り合うとなったら、武器はなど飛び道具が主流だろう。それこそ、昭和のヤクザ映画じゃあるまいし、刀を振りまわすなんて古風さはすたれつつあるのかもしれない。
それは兎も角、正体不明の斬り合いに遭遇したおれは、とりあえずは襲われている側を助けようと必死だった。もちろん、あのときは襲われているのが、まさか土方歳三だとは想像の範疇になかった。もちろん、襲っている側の正体が「人斬り半次郎」であることも同様である。
はやい話が、想像の斜め上を爆走しまくっていたってわけだ。
刀でガチマジに斬り合ったのはあれがはじめてだった。
兎に角必死で、なんにもかんがえられなかった。相手をみる余裕すらなかった。必死こいて「之定」を振りまわしただけである。
いまにして思えば、よくぞ生き残れたものである。
あらためて、ゾッとした。
無意識のうちに、自分で自分を抱きしめていた。「てっきり、組長ん一人かて思うちょった」
半次郎ちゃんの言葉で、はっとわれにかえった。
海江田の手前、半次郎ちゃんも新撰組の名はださず、組長という役職になるのか?兎に角、そうたずねてきた。
「いいえ。あのときは、兎に角必死でした。あの夜、はじめて人を斬ったのです」
正直に話していた。なにゆえかはわからないが。
「そうやったんか。たしかに、緊張しちょるんな感じられたが・・・・・・。そいじゃっどん、体躯はしっかり動いちょった。よほど、鍛錬を積み重ねちょるんじゃなあ」
やっぱ薩摩のほうがいいかも。おれという人物を、しっかりみていて肯定し、認めてくれている。
それなのに、それなのにだ。新撰組は、人格全否定の上に非認定しないと気がすまないのである。
うむ。転職するなら、ぜったいに薩摩である。ちかいうちに、薩摩藩のしかるべき部署に、給与や待遇、福利厚生など詳細を確認しておくべきだ。もちろん、中途採用を受け付けているかどうかも。
「土方さんをボコり損ねたってやつであろう?」
島田となにやら盛り上がっている永倉が、こちらに体ごと向き直ってきいてきた。
「そうです。あのとき、おれはその事件そのものを口止めされていたんです。いえ。それどころか、しゃっべたらぶっ殺すぞって、副長に脅されたんです」
「なんと・・・・・・。それは穏やかではないな」
島田は、まるで新撰組とは無関係の人のように呑気に感想を述べている。
「まっ、襲われた側も襲った側も、あの時期はビミョーだったからな。表沙汰にしたくはなかったってわけだ。どっちにしろ半次郎ちゃん、おれはあんたが土方さんをボコり損ねたってのが残念でならぬよ」
「きこえてるぞ、新八っ!」
おそらく、永倉なりのジョークにちがいない。あくまでもおそらく、であるが。それを、地獄レベルに耳ざとい副長がききつけ、怒鳴った。
ぜったい、耳をダンボにしていたにちがいない。
「斬り合いがはじめてであそこまで動けたんなら、あたは自身に厳しすぎるし、謙遜しすぎじゃ」
そんなの揉め事とは関係ないとばかりに、半次郎ちゃんがつづけた。
「過信しすぎるとめけもはんが、そん反対めけもはん。ないごてなら、そんた自身を信じちょらんでじゃ。自身を信ずっこっができらんのに、思う存分剣が振るっわけもなか。思うごつ力をだせっわけもなか」
いつの間にか、海江田や野村たちも口を閉じていて、半次郎ちゃんの重厚な言葉だけが室内を静かに席巻している。
めっちゃ驚いてしまった。まさか、「幕末四大人斬り」の筆頭である中村半次郎こと桐野利秋からアドバイスをいただくとは。
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